2016年1月19日火曜日

ウイルス再活性化とCAEBVを区別する

持続する発熱、倦怠感、咽頭痛などがあり、EBVウイルス量を測定したら高かった!

これはCAEBV!?


いままで述べてきたように、一過性のウイルス再活性化も同じような症状や検査値を示すため、ウイルス再活性化とCAEBVを区別(鑑別)する必要があります。

医療の世界で、診断をつけるうえで重要なものは、事前確率です。
つまり、どのくらいその疾患の頻度があるかです。

EBVウイルス再活性化については、文献が乏しく、実際の新規発症率・有病率を知ることはできませんでした。なので、かわりに同じヘルペスウイルスのウイルス再活性化である、帯状疱疹の頻度から類推することにしました。

各種文献を見ると、帯状疱疹の年間新規発症率は1000人に4人程度のようです。
帯状疱疹ウイルスの感染率はほぼ100%ですが、EBVの日本での感染率は、2~3歳で約70%、20歳以上で約90%です。

「帯状疱疹とEBVウイルス再活性化の頻度は同じ」と仮定すると、EBVウイルス再活性化の年間新規発症率は、1000人に3.5人程度と考えることができます。


CAEBVの新規発症率は、難病情報センターによると、平均23.8人/年。1000人に0.0002人です。


 ウイルス再活性化:CAEBV = 3.5:0.0002 = 17500:1


上記は極めてシンプルな仮定をもとに算出した値ですが、だいたいの傾向はつかめると思います。

持続する発熱、倦怠感、咽頭痛などがあり、EBVウイルス量を測定したら高かった!

これはCAEBV!?

おそらくですが、CAEBVの確率は1%未満ではないでしょうか。
もちろん入院が必要な状態では、もっと確率は高くなると思いますが、少なくとも症状が軽い場合は、EBVウイルス量の検査する必要性は乏しいといえるでしょう。


とくにCAEBVは治療が限られているため、早期発見早期治療とはいかないことも、検査の必要性を低くします。
次では、CAEBVの治療について述べたいと思います。

EBV再活性化とは何か

ウイルスの再活性化とはなんでしょうか。

ウイルスの再活性化とは、細胞のなかに潜伏感染していたウイルスが、ストレスなどの免疫低下時に、再度活性化(増殖)して、症状(疾病)を起こすことです。

たとえば、水痘・帯状疱疹ウイルスでは、初期感染で水痘を、再活性化で帯状疱疹を起こします。
単純疱疹ヘルペスは、口の周りの水泡、口唇ヘルペスを再活性化により繰り返し起こします。

ウイルス再活性化は、ヘルペスウイルスではよく見られる現象ですが、同じグループに属しているにもかかわらず、EBVでは再活性化が問題になりにくいとされています。通常は移植後リンパ増殖性疾患という、まれなケースでのみ再活性化が問題となっています。


問題になりにくいため、あまり研究はされていませんが、EBVでも再活性化が起こっていると思われます。

唾液内へのEBVの分泌割合は32~73%と幅があり、咽頭でのEBV再活性化との関係があると考えられています。

全身性のEBV再活性化では、感冒症状、すなわち発熱、倦怠感、咽頭痛、リンパ節腫脹(肝脾腫)などが生じると思われます。通常は短期間で治まるため、風邪と見分けがつかず、問題になることはないのでしょう。

しかし、この全身性の再活性化が一過性に終わらずに、腫瘍性に持続的に起こる場合がごく稀に起こることがあります。それがCAEBVです。


では、単なるウイルス再活性化とCAEBVをどう区別すればよいのでしょうか?
次はそれについて述べてみたいと思います。

2016年1月18日月曜日

健常人でのEBVウイルス量

健常人でのEBVウイルス量については、以下のリンクが参考になります。
Cambridge Universityが2007年に出版した「Human Herpesviruses: Biology, Therapy, and Immunoprophylaxis」です。



一般的に健常人のPBMCsのウイルス量は低い(<100 DNA genome copies/ug DNA)。
しかし、同じ人でもPBMCsのEBVウイルス量は一定ではない。健常人でも長期間経過を追うと、ウイルス量の短期的な上昇が観察され、EBV再活性化が示唆される。



健常人でも、EBV再活性化時には、ウイルス量が増えることがあるようです。
Fig 53.2によると、10^2.7程度まで上昇していることがわかります。
これは、CAEBV診断基準のカットオフの10^2.5を超える値です。

つまり、EBVウイルス量が高いということだけでは、CAEBVなどのEBV疾患と健常人のEBV再活性化を区別できないということがわかります。



それでは、EBVの再活性化とはどのようなものなのか?
次ではこれについて述べたいと思います。

2014年8月28日木曜日

EBウイルスゲノム量のカットオフ値の由来

EBウイルスゲノム量のカットオフ値の由来は、木村宏氏の論文「Quantitative Analysis of Epstein-Barr Virus Load by Using a Real-Time PCR Assay: Journal of Clinical Microbiology, 1999, 37(1):132」から来ています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC84187/




上記は論文の図表からの引用ですが、10^2.5コピー/µg DNAでラインを引くと、CAEBVは全てラインの上に、免疫正常者の対照群では全てラインの下に来ています。

これをもとにカットオフの目安を、10^2.5コピー/µg DNAとしたと思われます。


ここででてくる、PBMNCとは、Periopheral blood mononuclear cells の略で、末梢血の単核細胞中のウイルス量を調べていることになります。
つまり単位は、「末梢血単核細胞DNA μg当たりのコピー数」というわけです。

単核細胞とはなんぞや、ということになると、リンパ球や単球、マクロファージなどが該当します。


一般的な検査会社による検査対象としては、

  • 全血
  • 血漿
  • リンパ球

があるといいましたが、リンパ球が比較的近いということになります。単位もコピー/μgDNAです。
リンパ球と単球で、ウイルス存在確率が大幅に違う場合は別ですが、おおよそ同様とした場合は、同じ基準が概ね当てはまるのではないかと思います。


では、全血と血漿の場合はどう考えるべきでしょうか?
どちらも単位はコピー/mlです。

一度、同日検体を全血と血漿の両方で検査をしたことがありますが、
全血 11,000 コピー/ml、血漿 900 コピー/mlでした。
また、上記をコピー/μgDNAに換算すると、1,000~2,000ではないかという話もききました。


同じく木村宏氏の論文「Clinical and virologic characteristics of chronic active Epstein-Barr virus infection : blood 2001 98:280-286」に、末梢血単細胞と血漿での結果の相関について述べられています。



一見相関関係はありそうですが、

  • PBMCが高い群だけの結果であること
  • 血漿の結果が感度以下ということが比較的あること

などから、換算はできないと考えたほうが無難でしょう。

現状では、リンパ球で検査をだすことがよいと思われますが、血漿や全血で行った場合は、ある程度上昇しているという判断はできるかもしれません。


ここで、疑問がわいてきます

DNA量が上昇していることは異常なのか?健常人で上昇することはないのか?

次でこれについて述べたいと思います。

2014年4月28日月曜日

EBウイルスゲノム量の増加

2-b) EBウイルスゲノム量が増加している

についてです。これも補足事項に説明があります。

a) 病変組織(含末梢血)のEBウイルス DNA, RNA, 関連抗原およびクロナリテイの検索

  1. PCR法 (定量、定性) 
末梢血における定量を行った場合、一般に10^2.5コピー/µg DNA以上がひとつの目安となる。 定性の場合、健常人でも陽性となる場合がある。 

前述の抗体価は、あくまで免疫状態からウイルスの存在を考えるというものでしたが、技術の進歩から、ウイルスそのものを検出することができるようになりました。ウイルスのDNA=ゲノムをPCRという方法で検出しています。

末梢血=通常の採血をして、検査会社に提出することで、簡単に調べることができます。

ただし、検査方法についてはいくつかあり、結果の判定には注意が必要です。
具体的には、検査対象には
  • 全血
  • 血漿
  • リンパ球
があり、検査結果の単位には
  • コピー/mL
  • コピー/µg
があります。
診断基準の補足事項には、「10^2.5コピー/µg DNA以上がひとつの目安となる」とだけあり、ここでは検査方法の種類はわからず、検査結果をどう解釈するのかが難しいです。

例えば、LSIメディエンスのEBウイルス(EBV)-DNA定量では、

血清(または血漿)を対象とし、単位はコピー/mlです。基準値は100未満とされています。
例えば、40x10(400)と結果がでた場合、どう判断するのでしょうか?
CAEBV判断基準補足事項の10^2.5=316とは単位が異なり、400>316とすることはできません。
検査会社の基準値を指標とする方法もありますが、この検査の場合、定量下限を基準値としており、臨床的な基準値であるとはいえません。

つまり、結果がでてもこの分野の専門家以外には高低を評価できないのです。

ということで、元となる論文をあたることにしました。次に続きます。

EBウイルス抗体価の異常

CAEBV診断指針の主要決定項目は、
2) 血液検査などでEBウイルスが異常に増えている
であると前回いいました。今回はこれを詳しくみていきます。

元の文章は、
2) VCA, EA抗体価高値を伴う異常なEBウイルス抗体反応または病変組織(含末梢血)におけるEBウイルスゲノム量の増加
ですが、2つの要素にわかれていて、
2-a) EBウイルスの抗体価が異常である
2-b) EBウイルスゲノム量が増加している
となっています。

もともと、ウイルスなどは、直接測定することができず、ウイルスへの免疫反応である抗体の値を間接的に測定していた(2-a)が、最近では検査方法が発達して、直接ウイルス量を測定することができるようになった(2-b)、ということで2つにわかれています。
とはいえ、直接的なウイルス量の測定は、簡単にできるものではなく、最初は抗体価で見ていきましょうとなると思います。


2-a) EBウイルスの抗体価が異常である
については、補足事項に内容があります。
2. VCA、EA抗体価高値とは一般にVCA-IgG抗体価640倍以上、EA-IgG抗体価160倍以上がひとつの目安となる。加えて、VCAおよびEA-IgA抗体がしばしば陽性となる。 

EBVに関連する抗体はいくつかあります。
CDCのホームページによると、

  • Viral capsid antigen (VCA)
    • 抗VCA IgMはEBV感染の初期に現れ、通常4~6週で消失する。
    • 抗VCA IgGはEBV感染の急性期に現れ、発症から2~4週でピークとなり、少しずつ減りながら残りの人生の間持続する。
  • Early antigen (EA)
    • 抗EA IgGは病気の急性期に出現し、通常3~6ヶ月後には検知できないレベルに低下する。多くの人では、EA抗体の検知は、急性感染のサインだる。しかし、20%の健康な人でも、年余にわたってEA抗体が認められる。
  • EBV nuclear antigen (EBNA)
    • EBNA抗体は、通常の免疫傾向テストによって測定され、EBV感染の急性期には認められないが、発症2~4ヶ月でゆっくり出現し、残りの人生の間持続する。他のEBNA酵素免疫分析(EIA)では、偽陽性結果が報告されている。

SRLのホームページに推移についてわかりやすい図があります。

(上記ページから転載)


診断基準補足事項のVCA-IgG抗体価640倍以上、EA-IgG抗体価160倍以上ということは、回復期レベルの状態が、持続している=EBV感染が持続している、ということになります。

ちなみに、IgAは粘膜免疫の主体です。IgAが高値ということは、EBV感染が粘膜(特に咽頭)の感染を生じていることを示しています。

また、抗体価○○倍となっていますが、検査法によってこれは異なります。○○倍として結果が表現されるのは、FA法(蛍光抗体法)のことであって、EIA法(酵素免疫分析法)では2.2などと表示されます。換算表は提示されていないので、どの程度が高値であるかは、経験的判断または検査会社へ問い合わせる必要があります。


2014年3月25日火曜日

CAEBVの診断

CAEBVの診断指針は、EBウイルス感染症研究班が2003年に提案している。
http://ebv.w3.kanazawa-u.ac.jp/pdf/CAEBV0113.pdf

1) 持続的あるいは再発する伝染性単核症様症状
2) VCA, EA抗体価高値を伴う異常なEBウイルス抗体反応または病変組織(含末梢
血)におけるEBウイルスゲノム量の増加
3) 慢性に経過し既知の疾患とは異なること*
以上の3項目をみたすこと。
*経過中しばしばEBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症、主にT細胞・NK細胞リンパ増殖性疾患/リンパ腫などの発症をみる。一部は蚊刺過敏症などの皮膚病変をともなう。 

ひとつずつ見ていきましょう。

1) 持続的あるいは再発する伝染性単核球症様症状

伝染性単核球症様症状の説明は補足条項にありますが、漠然としています。
補足条項
1. 伝染性単核症様症状とは、一般に発熱・リンパ節腫脹・肝脾腫などをさす。加えて、伝染性単核症に従来主に報告される血液、消化器、神経、呼吸器、眼、皮膚あるいは心血管合併症状・病変(含動脈瘤・弁疾患)などを呈する場合も含む。 
通常、伝染性単核球症といえば、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹ですね。
あとは、肝脾腫、異形リンパ球、ときに肝障害でしょうか。
他のウイルス感染、ある意味感冒程度でも生じうるもので、特異的な意味はなく、
「なんらかのウイルス感染を疑う症状を繰り返している」という状態でしょう。


2) VCA, EA抗体価高値を伴う異常なEBウイルス抗体反応または病変組織(含末梢血)におけるEBウイルスゲノム量の増加

PDFファイルの補足条項の2と3は、この2)の項目についての補足です。
血液検査などによって、EBウイルスが異常に増えていることが判明しているということですね。

これについては次回詳しく見ていきます。


3) 慢性に経過し既知の疾患とは異なること

いろいろ調べても、他の疾患にはあてはまらないということですね。
CAEBVは、有病率が非常に少なく、最初に疑うべきものではないのでこうなっています。



まとめると、
1) なんらかのウイルス感染を疑う症状を繰り返している
2) 血液検査などでEBウイルスが異常に増えている
3) いろいろ調べても他の疾患ではなさそう

ということが診断指針ということです。

1) は若年者ではそれほどまれなことではないですし、
繰り返しの頻度については、記述がなく、多くの人が該当しそうです。

3) いわゆる不明熱は、原因がわからないことが多く、
これも該当する人が多そうです。

つまり、2) のEBウイルスの異常増加、が主要決定要因といえます。
これをみたら、CAEBVの可能性が高い!となるということです。

次回に続く